未来の価値 第27話


暗くなった画面を見て、シュナイゼルは珍しく息を吐いた。

「お疲れのようですわね、殿下」

傍に控えていた副官・カノンが心配そうに言った。
面倒な各国の重鎮たちを相手に、長時間の会談を行ってもロイヤルスマイルを崩さないシュナイゼルが疲労を滲ませているのだ。学生時代から傍にいるカノンでさえ初めて見るものだった。

「ルルーシュの心労に比べればどうという事は無いよ。それよりもカノン、ルルーシュに渡していた書類だが」
「全て引き上げたほうがよろしいかと。それともユーフェミア様にお渡しした方がいいのかしら?」
「・・・止めてくれないか、カノン」

心の底からの不愉快そうな声に、カノンは苦笑した。
こんなに感情を出しているシュナイゼルは、本当に珍しいのだ。

「冗談ですわ殿下。・・・残念でしたわね」
「ああ。残念だが、仕方がないね」

ルルーシュが忙殺されている事を知りながら、仕事を回していた理由は簡単だ。
ルルーシュの優秀さを目に見えてわかるようにしたかったのはルルーシュだけではなく、シュナイゼルもだった。
宰相である自分が信頼し、重要な案件を預けられる人物。
そして、その案件を想定以上の結果と共に報告できる人物。
そんな優秀な人材を、総督補佐などという地位に置いておくのは勿体ないと、周りを納得させるための1手。ルルーシュが完全にエリア11に腰を据える前に、多少強引でも引き抜きたかったのだ。
もちろん、ルルーシュが望むなら、偽の妹という事になっているナナリーも共に。
名目はルルーシュ付きのメイド、あるいは妾とすれば問題は無い。
あくまでもナナリーを死んだ事にしたいというなら、協力するだけだ。
スザクの入学は、ルルーシュと繋がる理由として都合が良かった。スザクを入学させる条件だと言えばルルーシュは素直にこちらの要望に従い、おかげで期待以上の成果を残してくれていた。入学した後も、いくつかの仕事を与えるつもりだった。
だが、ユーフェミアの我儘でその繋がりは消え去った。
後先考えず、一切の手順も踏まず、自分の願いだけを叶えてしまったのだ。
あれで副総督。
為政者として落第点である彼女が、ルルーシュよりも立場が上になるのだから、この国の血筋を何よりも尊いものと考える思考に呆れてしまう。
無能が上につき、能力のある者が辛酸を舐める世界。
弱肉強食というならば、能力のある者が這い上がるべきだろうに。
父が皇帝である間は考えても無駄かと、シュナイゼルはその思考を消し去った。

「次のチャンスを待つしかないね。所でカノン、ルルーシュへのお詫びはこんな所でどうだろうか」

ルルーシュはスザクが入学できるならそれでいいというだろうが、あれだけの成果を成したのだから対価は与えるべきだろう。 シュナイゼルが提示した物を見て、カノンは目を丸くした。

「・・・十分すぎるかと。ですが殿下」
「アッシュフォードは最愛の弟を守り続けてくれたのだから、当然の褒章ではないかな」

シュナイゼルがカノンに渡した書類。
それは、アッシュフォードに褒賞として爵位を、それも伯爵の地位を与えるためのものだった。



「そうか、ナナリーは喜んでくれたか」

心の底から嬉しそうにルルーシュは笑っていた。

先日ルルーシュがこっそり抜け出して、特派に来た日。
どうせだからと寄り道しながら帰った先で見つけた小さなお店。
そこは女の子が好きそうな小物を扱っているお店で、男二人が入るにはなかなか敷居の高い店だった。だが、ルルーシュは躊躇することなく店内に入り、もう会う事が出来ないかもしれない妹に贈り物をしたいと熱心に商品を見始めた。
買ったのは可愛らしいブローチ。
それを預かっていたスザクは、今日学校に行った際にナナリーに渡した。
ルルーシュからだと言えば、花もほころぶような笑顔で喜び、一生大切にしますと指先でその形をなぞっていた。目の見えないナナリーのために、指で触って分かる物を買うあたり、流石ルルーシュだと思う。

「ほら、見てよ」
「ああ、本当だ。よく似合っている」

スザクの携帯にはその時の写真が収められており、ブローチを付け誇らしげに笑っている姿に、ルルーシュは蕩けそうな笑みを向けた。この写真をあげたいところだが、今のルルーシュの携帯に送る事は出来ないのが残念だ。いつでも好きな時に見せてあげるからね。と、写真を見つめているルルーシュに、心の中で言った。

「それで、予定通り明日ブリタニアへ?」
「ああ。準備があるからな、明日クロヴィス兄さんと向かう」

今日は水曜。ルルーシュの生存を知らせる謁見は明後日。
謁見の前日には本国入りする予定になっていた。

「ユフィは?」
「一緒だ。あの子だけ残しても、仕方がないだろう?」

だよね、とスザクは苦笑した。
もし何かが起きた時、ユーフェミアが下手な対応をしても困る。
スザクの入学関係の事もあり、クロヴィスとシュナイゼルはユーフェミアの行動力を警戒していた。本来であれば総督のクロヴィスが残るべきなのだが、今回は皇位継承権の高い皇族は全員召還されており、クロヴィスも例に漏れない。ユーフェミアも上位の皇族なのだが、強制参加は皇子だけで皇女はコーネリア以外強制参加ではないらしい。ユーフェミアは残りたいようだったが、コーネリアが必ずユフィを連れて来るようにと言ってきたため、どの道ユーフェミアにも選択肢は無かった。

「・・・スザク、ナナリーを頼む」
「うん、まかせて」

シュナイゼルから、特派はテロが起きても待機するよう命令が出ている為、スザクは今回の件が落ち着くまでは学園に、つまりナナリーの傍にいることが決まっていた。
おそらく、シュナイゼルはナナリーの生存に気づいている。
あちらの意図は解らないが、今回はスザクをナナリーの護衛として学園に配置したと考えられたため、ただ働きさせたことに対する報酬だと受け取ることにし、警戒だけは怠らないようにアッシュフォードにも伝えていた。

明後日。
ナナリーを取り巻く環境が一変する。
ルルーシュの不安を少しでも取り除くように、スザクは明るい笑顔で笑った。

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